企業名: Samsung Life Insurance
業界: 生命保険
テーマ: 保険業界の未来とDocument AI
焦点: クレーム業務変革とAI活用による構造的進化
はじめに
Upstage Document AIの導入により、Samsung Lifeは保険金請求1件あたりの処理時間を1分未満に短縮し、年間11,000時間の業務時間削減を実現しました。
ITC Japanの会場にて、Samsung Life Insurance AI Strategy and Operations担当VPであるIkjoon Sohn様にお話を伺い、Upstage Document AIとともに歩んできたイノベーションの軌跡について語っていただきました。
日韓の保険会社は同じ問いに直面している
Q:ITC Japanで日本の保険業界リーダーと対話して、特に印象に残ったことは何ですか?
韓国と日本の保険市場は、顧客特性、商品構成、チャネルの面で非常によく似ています。両市場とも、不確実性を伴う変革のフェーズにあります。しかし同時に、日々進化する新しいテクノロジーに向き合い続けなければなりません。それは生き残りのためでもあります。
日本の保険会社のリーダーの方々とお会いしましたが、皆さん同じ問いを持っていました。どうすれば本当に実効性のある、変革につながるAIイノベーションを実現できるのか、ということです。
AIはコストが高いため、ROIを簡単に実現できるものではないということを私たちは認識しました。たとえ小さなモジュールを開発する場合でも、十分なリターンが得られなければ、その投資を正当化することは非常に難しいのです。だからこそ、私たちは皆、似たような考えに至っているのだと思います。AIによる変革の価値を最大化するためには、部門を横断したAIユースケースを開発する必要があります。現時点では完璧な答えがあるわけではありません。しかし、日本企業と韓国企業はまさに同じ道のりを歩んでいると感じました。同じ課題に直面しており、そして非常に似た結論にたどり着きつつあるのです。

なぜ保険金請求業務の自動化に注力したのか
Q:Upstage AIを活用して、保険金請求業務のどのような課題を解決しようとしましたか?また、なぜ今が適切なタイミングだったのでしょうか?
保険金請求の自動化は、これまでも多くの保険会社が取り組みたいと考えてきたテーマです。顧客は常にスピードを求めていますが、同時に正確性も求めています。その両方を実現できるかどうかが顧客体験を大きく左右し、結果として顧客はその能力を持つ保険会社を選ぶようになります。だからこそ、私たちはAIを活用した保険金請求の自動化に取り組んできました。
しかし、最初に直面した最大の課題は、データが整備されていないことでした。特に、医療機関から提出される診断書や医療費明細などの非構造データは形式が統一されておらず、原本の文書を読み取り、データとして活用できる形に変換することが非常に難しかったのです。そもそもデータが整っていなければ、プロセスを自動化したり、適切なルールを構築したりすることはできません。
今回が適切なタイミングだと考える理由は、私自身が7年前に別の保険会社で同様の取り組みを試みた経験があるからです。当時は精度が十分ではなく、紙ベースの保険金請求書や非構造データを正しいデータ形式に変換することが非常に困難でした。当時のOCRは、文書が非常にきれいな状態でなければうまく機能しなかったのです。
しかし現在では、AI OCRやDocument AIの登場により、約90〜95%の精度に到達しています。このレベルの精度があれば、システムを信頼し、保険金請求業務の自動化に技術を適用することが可能になります。
そして、保険金請求の自動化は単なる業務効率化にとどまりません。請求プロセス全体を通じて、より良いサービスを提供することで顧客体験そのものを変える可能性があります。さらに、こうしてデジタル化されたデータは、引受業務や商品開発にもフィードバックされます。バリューチェーン全体でデータが循環することで、ポジティブなサイクルが生まれ、最終的には損害率の改善にもつながります。これは保険ビジネスにとって大きな変革をもたらすものだと考えています。

精度から「業務上の信頼」へ
Q:Document AI導入後、業務モデルや顧客体験にはどのような変化がありましたか?
私たちにとって最も大きな変化は、精度の向上です。これまで約60〜70%だった精度が、現在ではおよそ90%まで向上し、そのレベルであればシステムを自信を持って信頼できるようになりました。システムを信頼できるということは、そこから抽出されるデータも信頼できるということであり、それを実際の保険金請求プロセスに活用できるようになります。
ただし、私たちは非常に慎重なアプローチを取っています。保険金請求から支払いまでのプロセスは、顧客体験にとって極めて重要だからです。顧客に過少支払いや過大支払いがあってはなりません。特に過少支払いは重大な問題です。そのため、すべてのデータが正しい形で整理されていることを確認する必要があります。Upstageの技術を活用し、抽出されたデータを既存の業務ルールと組み合わせて、高・中・低の3つの信頼度レベルに分類しています。現時点では、リスクのない案件のみを自動化の対象としています。
現在、このプロセスで処理されている請求は全体の約5%ですが、今年中には10%まで拡大すると見込んでいます。技術がさらに成熟し、社内の請求処理プロセスとの連携も進めば、段階的に適用範囲を広げていく予定です。今後2〜3年で、50%程度まで拡大することを目指しています。
顧客の視点から見ても、これは非常に大きな意味があります。自分の請求が適切なタイミングで支払われるという安心感につながるからです。病気や治療に関する支払いをきちんと行うためにも、これは非常に重要なことだと思います。そしてそれは顧客だけでなく、企業にとっても同様に重要なことだと考えています。

Dream Big, Start Smart
Q:今年、具体的な成果を求める日本の保険会社経営層に向けて、どのようなメッセージを伝えたいですか?
私がプレゼンテーションでもお話ししたように、私が繰り返し強調しているキーワードは「大きく描き、賢く始める(dream big, start smart)」です。大きな志を持つことは重要ですが、AIは運用コストが高いため、投資や労力を正当化できるだけの価値を生み出す適切な取り組みを定義する必要があります。AIトランスフォーメーションを成功させるためには、このようなアジリティ(機動力)が重要になると考えています。
そのため、すべてが整うのを待つのではなく、まず自分たちのチームを整え、実際に取り組みを始めて、できるだけ多くの経験を積むことが大切です。誰もが同じ船に乗っているような状況だと思います。最終的に、失敗しながら学ぶ経験を持てるかどうかが、AI技術の恩恵をいち早く受けられるかどうかを決めるのだと思います。



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